2001.8.5の独り言

 ここ近年、アメリカの物価が高い。ニューヨークの物価は論外としても、それ以外のアメリカも安くない。在米日本人としては、どうしても日本と比べてしまうので、「日本の物価が安い」と言い換えても半分は当たっている。

 普通、物価というのは徐々に上がっていくものだとは思う。しかし、ハイテク関連商品の価格に限っては、これまではハードもサービスも下がる一方であった。未だ下がり続ける日本に対して、アメリカは上昇傾向に転じている。日米の差が特に顕著なのが、インターネットの接続料金。かつて40ドルが標準だったアメリカのDSLの月額利用料金は、今は50ドルが標準。かつては20ドルが標準だった最高56kbpsの接続料金だって、今じゃ大手ISPは24ドルも取るらしい。「Yahoo! BB」より高いじゃないか・・・

 日本は都心部の家賃も下がり続けているみたいだし、電化製品も大抵のものは日本の量販店で買ったほうがはるかに安い。外食産業言うにおよばず。日米往復航空券も、特にニューヨーク成田往復航空券は数年前から、日本で買ったほうが安い場合が多い。

 円安+デフレで、今なら、大抵のものは日本のほうが安いのである。

 取材の合間に、同業者2人と愚痴を言い合う。1人は40代前半男渡米後多分20年超。1人は20代後半男渡米後約2年。皆、自分の意志で勝手に渡米。明日の保証もないフリーランスの身。

 「昔は日本からの仕事って、美味しかったのにね。(日本からの仕事の)ギャラ、安くなったよね」「円建てでもらっても、困るよね」「日本でさ、安いパソコンの周辺機器とか買って、物にしてこっちに持って来たりして」「俺、ロレックス日本で買って、こっちで売ったりすることある」「日本のヤツが何も知らないで『アメリカは何でも安くていいよね』とか言って、生活費、こっちのほうが高いっての」・・・

 物価の話に限らず、「月に一度は、どっかに苦情の電話しなきゃいけない」という話や、アメリカのサービスの質の悪さに対する愚痴なども混ざる(この辺、我々は「昔の日本」をイメージして比べているので、逆に我々が「何も知らないで」いる可能性もある)。

 要するに、毒にも薬にもならないというのか、お互いに傷をなめ合うような会話である。境遇が似たようなもんだから、余分な説明がいらない。愚痴ったところでどうなるものでもないと、わかっている。単にささやかなストレス解消をしているのである。

 似たもの同士の会話。何がいいって、「そんなに嫌なのに、なんでアメリカに住んでるの?」なんて、間違っても言われないのがいい。それはもう、「そんなに嫌なら、生きてんの止めれば?!」って言ってるのに等しい愚問。

 日本に住んでたら身の回りのことに文句言わないのか?! 少なくとも私は聖人君子様じゃないんで、どこに住んでたって、愚痴のネタにも文句のネタにも困らない。日本に住んでたって、文句言うに決まってる、それももっとずっとたくさん。総合評価でどっちがマシかって考えて、アメリカのほうがずっとマシだから、こっちに住んでるんである。

 こういう、とてつもなく当たり前な、言うまでもない前提条件を共有している相手との会話は、非常に楽である。何の解決にもならないけれど、気分が少し楽になる。


 愚痴ではないけれど、在米日本人がなんとなく共有している感覚のお話。

 まず一般的な白人に関する説明から。白人は、その色から判断して、どう考えても寒い地方で進化した生物であろう。だから、寒さに強い。痩せてる太ってるとは別の問題として、皮膚だか皮下脂肪だかわからんけど、おそらく平均的に厚いと思う。毛の色が薄いから目立たないけど、平均的に毛深い。純毛の毛皮は絶対に暖かいはずである。普通の日本人はとても寒くて泳げないような日に、屋外のプールで楽しそうに水遊びをしている白人をよく見かける。

 こうした勝手な考察に基づき、私は日本在住の日本人に対する会話の中で、白人が寒さに強いことを説明する際、「白人って、アザラシみたいなもんですから」などと表現する。例えとしてわかりやすいし、なんとなく愛嬌があって悪口っぽくなくていいかな・・・という勝手な判断。

 先日、日本から来た日本人と在米日本人が半々くらい同席していた場で、「白人は寒さに強い」という話になった。「まあ、白人は、アザラシみたいなもんですから」と、お得意の勝手な持論を展開した後、「でもね、アメリカに長く住んでると、なんだかアザラシ化してくるんですよ・・・」と私。

 アメリカに長く住んでいると、食い物のせいなのか、なんとなく寒さに強くなってしまうのである。日本から旅行で来た友人を案内していて、彼らが「寒〜〜〜い」と震えているのに、自分は全然、平気だったりするのである。

 その場にいた在米日本人、私も含めて4人。私以外は男性。年代も20代前半から30代後半とばらばら。在米期間は4年から10年。ずっとニューヨーク在住の人もいれば、ずっとLA在住の人も。

 そして全員、私の話に大きく頷いていた・・・

 4人中2人は、平均的日本人より痩せてたし、アメリカの食い物のせいで「太ったから」では、決してない。

 どうやらアメリカに住んでいると、アザラシ化するようである・・・・・


エッセーのメニューに戻る
  • 次回の独り言に行く
    過去の独り言メニューに戻る
  • 前回の独り言に戻る
    トップに戻る